タバコ・カフェイン・酒・くすりについて考えたこと

【健康・美容】

依存症史研究の第一人者デイヴィッド・T・コートライトは、著書『Forces of Habit』の中でアルコール・タバコ・カフェインを「ビッグスリー(Big Three)」と名づけた。オピウム・大麻・コカを指す「リトルスリー」と対比される存在で、大航海時代以降の世界貿易とともに広まり、征服にも社交にも欠かせない「燃料」とされてきたという。合法かつ日常に溶け込んでいる分、リスクが見過ごされがちなビッグスリーと、それに続く「くすり」について、精神科医・松本俊彦氏の著書『身近な薬物のはなし タバコ・カフェイン・酒・くすり』(岩波書店)を読み返しながら、客観的なデータと自分自身の妊娠中の実感を交えて整理した。

私自身はタバコと無縁の人生を送ってきたが、「吸わない」だけでは足りないと妊娠してから気づいた。問題は受動喫煙である。

喫煙者の10年間の死亡率(非喫煙者=1) 男性 約1.6倍/女性 約1.9倍
喫煙による年間死亡者数(2019年・日本) 約212,000人
うち受動喫煙による死亡者数 約16,800人
受動喫煙との関連が「確実」とされる疾患 脳卒中・虚血性心疾患・肺がん・乳幼児突然死症候群(SIDS)
図1|非喫煙者を1とした場合の10年死亡率
非喫煙者
1.0倍
喫煙者(男性)
1.6倍
喫煙者(女性)
1.9倍
図2|喫煙関連の年間死亡者数(2019年・日本)
喫煙関連死亡者数(合計)
212,000人
うち受動喫煙による死亡
16,800人

👶 妊娠中・胎児への影響

妊娠中の受動喫煙による死産リスクの上昇 +23%
受動喫煙による出生体重の減少 20〜100g
両親ともに喫煙している場合のSIDSリスク 約5.77〜10倍
図3|SIDSリスクの上昇(非喫煙世帯=1)
両親とも非喫煙
1.0倍
両親とも喫煙(下限)
5.77倍
両親とも喫煙(上限)
10倍

「加熱式だから大丈夫」という誤解も広がっているが、煙の見た目が変わるだけでリスクが消えるわけではない。妊娠してからは、電子タバコ・加熱式タバコを含め、タバコを吸っていそうな場所そのものに近づかないようにしている。

🍶 酒 ― お酒を飲む習慣がないことに感謝

お酒はもともと体質的にまったく飲めない。妊娠してからは、この体質に心から感謝している。

WHOが発がん性を認定した部位(2007年) 口腔・咽頭・喉頭・食道・肝臓・大腸・乳房(女性)
ALDH2低活性(顔が赤くなる体質) 日本人の約40%
ADH1B低活性 日本人の約5〜7%
世界のアルコール使用障害者数 約4億人(15歳以上人口の7%)
うちアルコール依存症 約2億900万人(3.7%)

💡「アルコール使用障害(AUD)」とは、飲酒によって心身や生活に問題が生じている状態全体を指す診断名(DSM-5)。以前の「依存」と「乱用」を統合した、いわば大きな傘のような概念で、症状の数によって軽症〜重症まで幅がある。表の「アルコール依存症」は、その中でも症状が重く該当項目数が多い重症群にあたる。つまり4億人(使用障害=軽症〜重症の合計)のうち、約2億900万人(依存症=重症群)が含まれる内訳になっている。

図4|日本人におけるアルコール分解酵素の低活性率
ALDH2低活性
約40%
ADH1B低活性
約5〜7%

ALDH2低活性はアセトアルデヒドの分解が遅く飲酒で赤くなりやすい体質、ADH1B低活性はアルコールが体内に長くとどまりやすく依存症になりやすい体質とされる。

👶 妊娠中・胎児への影響

胎児性アルコール症候群(FAS)の発生率(一般) 出生1,000人あたり0.5人(0.05%)
アルコール依存症の母親からの出生児での発生率 約33%(3人に1人)
「これ以下なら安全」という摂取量の閾値 医学的に確立されていない
図5|胎児性アルコール症候群(FAS)の発生率
一般的な妊婦の出生児
0.05%
依存症の母親の出生児
約33%

もし飲める体質だったら、妊娠中ずっと飲めない状態が続くことをつらく感じたかもしれない。飲めないので、今回は全く平気だった。

☕ カフェイン ― やめて気づいた「クラッシュ」の正体

ビッグスリーの中で、私が唯一日常的に付き合ってきたのがカフェインだ。妊娠が発覚したその日にやめて、もうすぐ丸2ヶ月になる。

健康な成人の摂取目安上限 400mg/日
妊婦の摂取目安上限(WHO) 300mg/日以下
妊婦の摂取目安上限(EFSA・欧州食品安全機関) 200mg/日以下
コーヒー100mlあたりのカフェイン量(目安) 約60mg(=150mlで約90mg)
図6|カフェイン摂取量の目安上限比較
健康な成人の上限
400mg
妊婦の上限(WHO)
300mg
妊婦の上限(EFSA)
200mg
コーヒー1杯(150ml)
約90mg

カフェイン・クラッシュとは

カフェインは神経を鎮める物質「アデノシン」と構造が似ており、アデノシンが本来結合する受容体に先回りして結合することで鎮静作用をブロックし、覚醒・興奮状態をつくり出す。効果が切れる際には、ブロックされていた受容体にアデノシンが一気に結合し、脳の活動が急速に抑制される。これが強い眠気やだるさ、集中力低下として現れる「カフェイン・クラッシュ」だ。日常的に摂取している人ほど、この落差を単なる「疲れ」と勘違いしやすい。

図7|カフェイン・クラッシュのイメージ(覚醒度の推移・概念図)

通常時の覚醒度 ① カフェイン摂取後:覚醒度が上昇 ② 効果切れ後:アデノシン一気に結合→クラッシュ(強い眠気・だるさ) 基準 覚醒度(イメージ) 時間 →

※ 実測データではなく、アデノシン受容体の作用メカニズムに基づく概念図。

👶 妊娠中への影響

妊娠中の過剰なカフェイン摂取は、低出生体重や流産リスクとの関連が指摘されており、WHO・EFSAともに一般成人より低い上限値を設けている。私は妊娠発覚当日にカフェインを完全に断った。やめてみて分かったのは、日々の体調の波がずいぶん穏やかになったということ。カフェインで無理に底上げしていた分、切れるたびに沈み込みを繰り返していたのだと思う。本当にやめてよかった。

💊 くすり ― 「治療のための薬」以外は口にしない

ビッグスリーと並んで見過ごせないのが「くすり」との付き合い方だ。日本では近年、市販薬の過剰摂取(オーバードーズ/OD)が社会問題になっている。

市販薬を乱用した中学生の割合(2024年度) 1.8%(男子1.5%・女子2.0%)
依存症治療を受けた10代患者のうち主薬物が市販薬だった割合 65.2%(違法薬物を上回る)
市販薬OD患者の平均年齢(依存症専門機関調査) 29.1歳
救急搬送された急性中毒患者に占める女性の割合 約79.5%
図8|市販薬OD専門治療患者の年代別割合
10代
24.5%
20代
37.4%
30代
21.1%
40代以上
17.0%

合法で薬局で買えるからこそ、依存の入り口として気づかれにくいという怖さがある。

👶 妊娠中への影響

薬の成分は胎盤を通じて胎児にも届くが、胎児の身体は未熟なため成分をうまく分解できない。特に妊娠4〜7週は中枢神経・心臓・消化器・四肢など主要な臓器が形成される時期で、催奇形性のある薬を服用すると赤ちゃんに影響が及ぶ可能性がある。

図9|器官形成期(妊娠4〜7週)のタイミング(全40週中)
0週4〜7週:器官形成期(催奇形性に特に注意)40週
妊娠発覚後に服用した市販薬 0件(一切服用していない)
服用している薬 産婦人科で処方された便秘薬のみ

おわりに ― 依存しない生き方を満喫したい

タバコ・カフェイン・酒・くすり。並べてみると、これらはすべて「依存症になりうるもの」という一点でつながっている。合法か違法か、処方箋が必要かどうかにかかわらず、脳の報酬系に働きかけて手放しにくくする性質を持つ点は共通している。

私はタバコと酒にはもともと縁がなく、カフェインも妊娠を機に手放した。市販薬も今は一切飲んでいない。だからこそ思うのは、これらに近づかない生活は、思っていたよりずっと快適だということ。刺激で底上げすることも、その反動に振り回されることもない。人間本来が持っている生き方を、これからも満喫していきたい。

参考・出典

  1. David T. Courtwright, Forces of Habit: Drugs and the Making of the Modern World, Harvard University Press(”The Big Three: Alcohol, Tobacco, and Caffeine”章)
  2. 松本俊彦『身近な薬物のはなし タバコ・カフェイン・酒・くすり』岩波書店
  3. 厚生労働省 e-ヘルスネット「女性の喫煙・受動喫煙の状況と、妊娠出産などへの影響」
  4. 厚生労働省 受動喫煙対策関連資料
  5. 厚生労働省 e-ヘルスネット「アルコールとがん」
  6. WHO Global Status Report on Alcohol and Health
  7. 消費者庁・農林水産省・食品安全委員会「食品中のカフェイン」ファクトシート
  8. 厚生労働省研究班 市販薬乱用(オーバードーズ)実態調査
  9. 日本の食品標準成分表(コーヒー中カフェイン含有量)

本記事は上記の公的機関・研究データをもとに作成した個人ブログであり、医学的な助言を目的としたものではありません。妊娠・体調に関する判断は必ず主治医にご相談ください。

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