寄付をするという習慣について

【お金】

毎月寄付している。

寄付という制度そのものに、わたしは完全に同意している。誰かの役に立つお金の流れを作ることは、それ自体に価値がある。そう思っている。

寄付の効果を最大限に発揮できるやり方は何か——ロックフェラーの10%ルールから、マッカスキルの効果的利他主義、ビル・ゲイツの最新の宣言まで、徹底的に調べた。この記事は、その調査と自分の実践をまとめたものである。

寄付というテーマについて、今回は少しじっくり書いてみたいと思う。

ロックフェラーの10%ルール

わたしが寄付を続けるきっかけになった一節がある。水野敬也さんの『夢をかなえるゾウ』に出てくる、ガネーシャのこのセリフだ。

「ロックフェラーくんはな、まだ若いうちから収入の一割を寄付し続けてたんや。全然お金持ちやないころからやで」
水野敬也『夢をかなえるゾウ』(飛鳥新社)

世界有数の大富豪となったジョン・D・ロックフェラー。彼は若く貧しかったころから、収入の10%を寄付し続けていたと言われている。寄付は、お金持ちになってから始めるものではない。むしろ、お金持ちになっていく人は、お金持ちになる前から寄付を始めている。

わたしは、成功者の真似をしているにすぎない。お金が貯まったら寄付しよう、ではなく、「少しでも手元にあるうちから寄付を始める」。この順序が大事なのだと思う。

そしてこのロックフェラーの思想は、100年以上の時を超えて、現代の大富豪たちに確実に受け継がれている。それが誰なのかは、この記事の後半で詳しく見ていく。

POINT
寄付を始める条件は「お金持ちになってから」ではない。「自分の中でそう決めた日から」である。

日本は寄付後進国という現実

日本人は寄付をしない、とよく言われる。これは感覚的な話ではなく、データで見ても明らかだ。渋澤健さんと鵜尾雅隆さんの共著『寄付をしてみよう、と思ったら読む本』に、こんな比較が出てくる。

寄付総額 GDP比
日本 7,756億円 0.1%
英国 1兆5,035億円 0.5%
米国 30兆6,664億円 1.4%

出典:渋澤健・鵜尾雅隆『寄付をしてみよう、と思ったら読む本』(日本経済新聞出版社)

米国の寄付額は、日本の実に約40倍。GDP比でも14倍の開きがある。文化的背景の違いはもちろんあるが、日本の寄付文化は世界的に見てもまだ小さな池であることは事実だ。

ちなみに、イギリスのCharities Aid Foundationが毎年発表しているWorld Giving Index(世界寄付指数)という指標がある。国民の何%が直近1ヶ月に寄付・ボランティア・人助けをしたかを測る調査だ。日本は2024年版で142か国中141位、つまり下から2番目——というショッキングな位置にいる。

これは「日本人の寄付マインドが低い」からではない

ただ、これを単純に「日本人の寄付マインドが低いから」と片付けるのは、少しフェアではない。米国と日本では、寄付金控除の制度設計そのものが大きく違う

制度項目 日本 米国
寄付金額の上限 総所得の40% 調整後所得の50〜60%
繰越制度 なし 5年間繰越可能
遺贈寄付の扱い 相続税の一部非課税措置 遺産税から全額控除

米国の寄付金控除は、所得の50〜60%までが上限(日本は40%)。しかも使い切れなかった分は5年間繰り越せる。日本にはこの繰越制度がない。さらに遺贈寄付は遺産税から全額控除されるなど、米国の税制は構造的に”寄付を後押しする設計”になっている。

さらに、文化的な土台の差も大きい。教会への十分の一献金(tithing)という宗教文化、寄付額が社会的地位に直結するフィランソロピー文化、政府が社会保障を手薄にするぶん民間寄付がセーフティネットを補う構造——こうした文化と制度が両輪で寄付を後押ししているのが米国だ。

日本の寄付文化が遅れているのは、国民の心の問題というより、制度と文化の土壌がまだ育っていないからなのかもしれない。心が冷たいのではなく、仕組みがまだないのだ。

ただ、これを逆側から見ると、ひとりひとりの小さな寄付が、まだ目に見える形で影響を及ぼせる余白がある、とも言える。すでに寄付文化が成熟している国では「海の一滴」でも、日本ではまだ「小さな池の一滴」だ。同じ1滴でも、波紋の意味がちがう。

寄付は、寄付する側も幸福にする

寄付は「お金を失う行為」ではない。複数の研究が、寄付をする人のほうが、しない人よりも幸福度が高いことを示している。

組織心理学者のアダム・グラントが『GIVE & TAKE「与える人」こそ成功する時代』で紹介しているのは、人間を3タイプに分ける枠組みだ。

ギバー(Giver):見返りを求めず、他者に与える人

テイカー(Taker):自分の利益を優先し、他者から奪う人

マッチャー(Matcher):もらった分だけ返す、バランス型の人

グラントの長年の研究によれば、長期的にもっとも成功しているのはギバーであるという。短期的にはギバーは搾取されることもあるが、10年、20年のスパンで見ると、信頼・人脈・評判の複利によって、テイカーやマッチャーを大きく上回っていく。

ハーバード大学の研究でも、「他人のためにお金を使う」ほうが「自分のためにお金を使う」よりも、幸福度が高まることが確認されている。同じ金額を使うなら、他者のために使ったほうが、自分に返ってくるものが大きいということだ。

POINT
寄付は利他的な行為のようでいて、実は自分自身への投資でもある。幸福度・人間関係・長期的な成功のすべてにおいて。

「効果的な寄付」という考え方

ただ寄付するだけでなく、どう寄付するかも考えたい。オックスフォード大学の哲学准教授ウィリアム・マッカスキルは、『〈効果的な利他主義〉宣言!』という本の中で、寄付の効果を最大化するためのフレームワークを提示している。

彼が紹介するひとつの事例が衝撃的だ。ケニアの子どもたちの就学率を上げるために、何が一番効果的かを調べた大規模なランダム化比較試験の結果——。

支援プログラム 就学率への効果
教科書の配布 ほぼ効果なし
教員の増配 ほぼ効果なし
駆虫プログラム 長期欠席25%減

出典:ウィリアム・マッカスキル『〈効果的な利他主義〉宣言!』(みすず書房)

腸内寄生虫の駆除という、地味で注目されない支援が、もっとも効果的だった。治療コストを計算すると、子どもひとりを1日多く学校に行かせるのに、たった5セントしかかからない。しかも駆虫を受けた子どもは、大人になってからの週労働時間が3.4時間長く、収入が2割も多いという長期追跡結果まで出ている。

マッカスキルが提示する、寄付先を選ぶための3つの視点はシンプルだ。

1. 問題の規模 — どれだけ多くの人(または命)が影響を受けるか

2. 解決可能性 — そのお金で、実際に解決に近づけるか

3. 見過ごされている度合い — 他の資金源からの注目が足りているか

とくに3番目が興味深い。大災害が起きた直後には寄付が殺到するが、一定以上の資金は限界効用が落ちる。一方で、地味で注目されない分野(駆虫、精神疾患、動物福祉など)は、少額の寄付でも大きなインパクトを出せる可能性がある。

再現性と継続可能性という、もうひとつの物差し

マッカスキルのフレームワークを読んで、「じゃあ最も効率的な寄付先じゃないと意味がないのか」と感じる人もいるかもしれない。実際、わたし自身は動物保護に寄付しているが、純粋な費用対効果でいえば、途上国の寄生虫駆除や感染症対策のほうが”1円あたりの救命数”は大きい

それでもわたしが動物保護を選んでいる理由を、自分なりに言語化するなら——

寄付は、再現性が高く、継続可能なアプローチでなければならない。

これが、わたしの寄付哲学の核にある考え方だ。

「1回だけの最適な寄付」より、「毎月淡々と続けられる寄付」のほうが、長い目で見て大きな波紋を生むと思っている。一度のホームランより、毎日のルーティンで積み上げる。それは朝4時起きや、2時間のウォーキングや、読書30分と同じ、わたしの日常を支える”基盤としての習慣”である。

再現性のある寄付、3つの条件

わたしの考える「再現性が高い寄付」には、3つの条件がある。

1. 金額が無理のない範囲である
収入の上下に左右されない額。生活を圧迫しない額だからこそ、何年でも続けられる。

2. 仕組みが自動化されている
毎月の自動引き落としで、意志の力を使わない。「今月も寄付しよう」と毎回決意する必要がない状態を作る。

3. 心が動く分野である
義務感ではなく、自然と続く内発的な動機があること。心が動かない分野には、どんなに効果的でも続けられない。

無理のない金額、自動引き落としという仕組み、心から応援したい複数の分野。この3つが揃っているから、何年続いても疲れない。次の10年、20年も続けられる自信がある。

継続は、スケールを超える

たとえば月4,000円を20年続ければ、累計96万円。小さな寄付でも、継続すれば決して小さくない金額になる。そして、一度きりの大きな寄付より、毎月の小さな継続のほうが、支援先の団体にとってもはるかに運営しやすい安定収入になる。

そして何より、継続している自分がそこにいるということ。20年間、月4,000円の寄付を続けていた自分は、続けていなかった自分とは、別の人間になっている。これは寄付の副作用ではなく、たぶん本質的なリターンのひとつだ。

効果を計算することと、再現性を重視すること。この2つは矛盾しない。どちらも「寄付をより良いものにしたい」という同じ願いの、別の表現に過ぎない。わたしは後者のほうを、自分の寄付の羅針盤にしている。

POINT
続けられない”最適な寄付”より、続けられる”自分の心が動く寄付”のほうが、長い目で見れば大きな波紋を生む。

寄付金控除という、もうひとつの入口

あまり知られていないが、認定NPO法人や公益社団法人への寄付は、寄付金控除の対象になる。確定申告をすれば、所得税の一部が戻ってくる仕組みだ。

ただし、寄付金控除には2つの上限が設けられている。いくら寄付しても無制限に控除されるわけではないので、高額な寄付を検討する人は頭に入れておきたい。

寄付金控除・2つの上限

※1 寄付金額の上限
40%

控除の対象となる寄付金額には上限があり、その年の総所得金額等の40%が限度。

※2 控除額の上限
25%

寄付金控除額にも上限があり、その年の所得税額の25%相当額が限度(税額控除を選んだ場合)。

出典:国税庁「No.1150 一定の寄附金を支払ったとき」

一般的な会社員・個人事業主の感覚で月数千円〜数万円の寄付をする分には、まず上限に到達することはない。ただし、高額寄付や年末の節税を考えるときには、この2つの上限を思い出してほしい。

「ふるさと納税」も実質的には寄付の一形態である。年収500万円の会社員が上限まで活用すれば、約6万円の”寄付”を、実質負担2,000円で行える。返礼品の有無で印象は変わるが、仕組みとしては立派な寄付だ。

「寄付に興味はあるけど、経済的な余裕がなくて」と感じる人こそ、この控除制度をまず知ってほしい。同じ金額を寄付しても、税制を活用するとしないとでは、家計への負担がまったく変わる

「慣れるまでの苦しみ」と向き合う——寄付を”増やす”という次のテーマ

「収入の10%を寄付する」と言葉にするのは簡単だ。でも実際に自分の家計に当てはめてみると、脳が一瞬で拒否反応を示す。これは自分の意志が弱いからではなく、人間の脳の仕組みそのものだ。

損失回避バイアスという壁

ノーベル経済学賞を受賞した行動経済学者ダニエル・カーネマンが、著書『ファスト&スロー』で明らかにした人間の脳の仕組みがある。

人は「1万円を得る喜び」より、「1万円を失う痛み」を、約2〜2.5倍強く感じる
——ダニエル・カーネマン『ファスト&スロー』(早川書房)

これが損失回避バイアスと呼ばれる脳の仕組みだ。寄付を増やすことは、脳にとって「失う」側の出来事として処理される。実際に得られるメリットより、失う痛みのほうが、脳内では2倍以上強く感じられる。

だから、寄付を増やすには、脳に「寄付はお得なのだ」ということを、データと研究で徹底的に教え込む必要がある。損失回避バイアスを、理性と知識で上書きする作業だ。

寄付が”お得”である5つの科学的論拠

わたし自身が脳に言い聞かせている、寄付のメリットを列挙してみる。

1. 幸福度が上がる(ハーバード大学の研究)

心理学者エリザベス・ダンらが『Science』誌に発表した研究で、「他人のためにお金を使うほうが、自分のために使うより幸福度が高まる」ことが136カ国で確認されている。fMRIで脳を見ると、寄付したときの脳は、美味しい食事をしたときと同じ報酬系が光る。

2. Warm Glow効果(温かい輝きの感覚)

経済学者ジェームズ・アンドレオーニが提唱した概念。寄付は「自分はいい人間だ」という自己イメージを強化し、幸福度・自己効力感・人生満足度のすべてを押し上げる。しかも、金額が大きく、継続するほど、この効果は強まる

3. 寿命が伸びる(ミシガン大学の追跡研究)

約400組の高齢夫婦を5年間追跡した研究で、他者を助ける行動(寄付・ボランティア・家族支援)を続けた人は、死亡率が有意に低かった。寄付は、朝4時起きやウォーキングと並ぶ、”寿命を伸ばす習慣”のひとつである。

4. 自己投資は、ある時点で幸福の頭打ちが来る

カーネマンの別の研究で、ある収入水準を超えると、自分のためにお金を使っても幸福度はほぼ上がらなくなることが分かっている。一方で、他者のために使うお金(寄付)は飽和しない。お金の使い道には、幸福の限界効用の差がある。

5. 死ぬ時に後悔しない

緩和ケア看護師ブロニー・ウェアが膨大な臨死体験を記録した『死ぬ瞬間の5つの後悔』に、「もっとお金を貯めればよかった」は入っていない。入っているのは「もっと他人のために生きればよかった」。死ぬ時に後悔するのは、お金の使わなさ側であって、使い方側ではない。

ちなみに、寄付したときに脳内で何が起きているかも、研究で詳しくわかってきている。ドーパミン、オキシトシン、セロトニン、エンドルフィン——いわゆる「幸せホルモン」と呼ばれる4つが、ほぼ同時に分泌される。

美味しい食事はドーパミン中心、ハグはオキシトシン中心、瞑想はセロトニン中心、激しい運動はエンドルフィン中心、というように、一般的な快楽行為はこのうちのどれか1つに偏る。寄付は、4つを同時に呼び起こす珍しい行為だという。脳科学的には、これほど効率の良い”自分へのご褒美”はそうそうない

実質負担は、見た目より小さい

もうひとつ、脳に言い聞かせるべき事実がある。さきほど紹介した寄付金控除だ。

認定NPO法人・公益社団法人への寄付は、税額控除で戻ってくる。所得や控除上限によって変わるが、一般的に、実質の家計負担は、見かけの金額の約6割程度まで下がることが多い。「収入の一割を寄付する」は、「その金額が丸ごと家計から消える」ではなく、「控除後のインパクトはおよそ6割」ということだ。

この数字を脳に刷り込むだけでも、苦痛の感覚はだいぶ和らぐ。

「慣れるまでの苦痛」は、成長の手前にあるサイン

改めて考えてみると、慣れるまでの苦痛を感じる感覚は、自分が成長する手前で現れるサインだ。今の自分のコンフォートゾーンの外側に、まだ行っていない景色がある、ということ。

身近な例でいえば、夫への誕生日プレゼントの金額も、わたしはここ数年で少しずつ増やしてきた。昨年は6万円ほど。今年は20万円相当のものを選んだ。決めた当初は、本当に20万円ものプレゼントができるのか、自分でも不安だった。でも、1ヶ月以上前から自分に言い聞かせ続けたことで、当日を迎える頃には、その金額はもうわたしの中で自然な数字になっていた。

「言い聞かせる期間」を経れば、金額の感覚は塗り変わる——これを、わたしは身をもって知っている。

寄付も、きっと同じだ。

POINT
慣れるまでの苦痛を感じる金額が、自分の次の成長点。脳は急激な変化には弱いが、段階的な変化には驚くほど強い。

わたしが提案したい「積立寄付」という仕組み

前半で書いたように、日本の寄付文化が遅れている理由は、制度と文化の土壌にある。でも、制度改革を待つあいだ、個人のレベルでは今すぐ始められる仕組みがある。

わたしがこれを、「積立寄付」と呼ぶことにしたい。毎月一定額を、意志に頼らず自動的に積み上げていく——そんな発想を、寄付にも持ち込めるのではないか、という提案だ。

なぜ「積立」なのか

毎月の自動積み立てという仕組みが、これほど広く支持されているのには理由がある。その設計の特徴を整理するとこうなる——。

✓ 毎月自動引き落としで意志の力を使わない

✓ 金額を収入に対する割合で設計できる

少額から始められる

続けることで複利的に積み上がる

これは全部、寄付にもそのまま適用できる特徴だ。でも現状の日本では「寄付=一回ごとの募金・街頭募金・災害への義援金」というイメージが強く、積立的な仕組みとして捉えられていない。ここに、個人レベルで変えられる大きな余白がある。

積立寄付の5つの原則

わたしが考える、継続的で再現性の高い寄付を設計するための5つの原則——。

原則1. 意志に頼らず、自動化する

マンスリーサポーターとして登録し、毎月自動引き落としに設定する。「今月も寄付しよう」と毎回決意する必要がない状態をつくる。意志の力は有限だが、仕組みは無限に働く。この差が、10年、20年のスパンで決定的な違いを生む。

原則2. 固定額ではなく、「割合」で設計する

月3,000円のような固定額より、「収入の○%」という割合設計のほうが、長期的に再現性が高い。収入が上がれば寄付も上がる。ライフステージが変わっても、割合さえ守れば続けられる。ロックフェラーの10%ルールが100年以上語り継がれているのは、それが割合で設計されているからだ。

原則3. 複数分野に分散する

1団体への集中より、3〜5団体への分散。投資でポートフォリオを組むのと同じ発想で、時間軸(今すぐの命/未来の土壌)、領域(国内/国際)、規模(個別支援/システム変革)を組み合わせる。分散は、興味の持続と思想の広がりを同時にもたらす。

原則4. 段階的に増やす

いきなりロックフェラーの10%を目指さない。0.5%や1%から始めて、3〜6ヶ月ごとに一段ずつ上げる。脳が強く拒否する金額を避け、慣れる時間を与える。自分に言い聞かせる期間を経て、その金額を自然な数字に変えていく。

原則5. 税制を必ず活用する

寄付先は認定NPO法人・公益社団法人・認定公益信託などに限定する。そして、年1回の確定申告を「寄付ポートフォリオの振り返りと控除申請の儀式」として位置づける。日本の現行制度は米国に比べれば見劣りするが、それでも実質負担を約6割まで下げられる価値は絶大だ。

わたしの”積立寄付”の実例

この5原則を、今のわたしに当てはめるとこうなる。

原則 わたしの実践
1. 自動化 全てマンスリーサポーター(自動引き落とし)
2. 割合で設計 現在はごく小さな割合(10%を長期目標)
3. 分散 動物保護・探究学習・本を届ける活動の3分野
4. 段階的に増額 現在は月に4,000円。次は半年後に再検討
5. 税制活用 3団体のうち2団体が認定NPO法人(寄付金控除対象)

完璧ではない。収入比ではまだロックフェラー水準には遠い。でも、仕組みとしては動き始めている。あとは脳を慣らしながら、段階的に割合を上げていくだけだ。

「寄付=特別なこと」から「寄付=生活インフラ」へ

この提案の核にあるのは、寄付を「余裕のあるときに気まぐれにするもの」「特別な瞬間に行うもの」ではなく、家賃や光熱費と同じように、生活インフラの一部として組み込むという発想の転換だ。

家計の固定費のなかに、家賃・光熱費・通信費・保険料・そして寄付という項目を並べる。月々の収支表に、当たり前のように寄付の行が入っている状態。それを10年、20年と続ける。

これが、制度改革を待たずに、個人のレベルで日本の寄付文化を草の根から変えていく仕組み——わたしの考える「積立寄付」の提案だ。

POINT
寄付を「気まぐれな善行」から「生活インフラ」へ。自動・割合・分散・段階・控除の5原則で設計する。それが、個人の意志で続けられる積立寄付。

ビル・ゲイツの「最後のチャプター」

記事の前半で触れたロックフェラーの10%ルールから、ちょうど100年あまり。寄付という思想は、時代を超えて進化しながら、確実に受け継がれている。その現在形と呼べるのが、ビル・ゲイツの最新の宣言だ。

2025年5月、ゲイツは自身のブログ「Gates Notes」に “The Last Chapter of My Career”(私のキャリアの最後の章)と題したエッセイを投稿した。内容は衝撃的だった。

ビル・ゲイツの2025年寄付宣言

・今後20年間で、全財産の約99%を寄付

・寄付総額は約2,000億ドル(約29兆円)

2045年にゲイツ財団を閉鎖する

これは、単なる寄付の約束ではない。「自分の人生の終わり方」そのものを、生前に設計するという意思表示だ。ゲイツはこの宣言のなかで、鉄鋼王アンドリュー・カーネギー(1835-1919)の有名な一節を引いている。

富を持ったまま死ぬ者は、不名誉のうちに死ぬ。
——アンドリュー・カーネギー『富の福音』(1889)

そしてゲイツは、自分の言葉でこう続けた。

私の死後、いろいろな評価があるでしょう。でも、少なくとも”金持ちのまま死んだ”とは言わせません。
——ビル・ゲイツ(2025年5月)

「富はあくまで預かりもの」という母の教え

ゲイツがこう言い切れる背景には、母親の教えがあった。2025年2月に刊行された自伝『SOURCE CODE 起動』のなかで、ゲイツは繰り返し回想している。「あなたが得る富は、あくまで預かりものにすぎない(steward)」——母は幼少期から、何度もそう言い続けていた。

自分の能力で稼いだお金ですら、自分のものではない。それは社会から一時的に預かっているだけで、いずれ社会に戻すもの——この世界観が、ビル・ゲイツという人物の根幹にある。

ゲイツ財団の年次書簡が教えてくれること

ゲイツ財団は毎年、寄付哲学と成果報告を兼ねた「年次書簡」を公開している(日本語版あり)。2024年の書簡のなかに、わたしがとくに心に残った一節がある。

10ドルでも1,000万ドルでも、寄付者は自分の寄付がインパクトをもたらしていることを知りたがっている。
——2024年度 ゲイツ財団年次書簡

10ドル(約1,500円)と1,000万ドル(約15億円)が、同じ地平で並べて書かれていることに注目したい。寄付という行為の本質のところではまったく同じだ——ゲイツ財団はそう言ってくれている。

100年続く寄付の系譜

ここで、寄付の思想がどう受け継がれてきたか、100年のスパンで俯瞰してみたい。

時代 人物 寄付の思想
1870年代〜 ロックフェラー 若いうちから収入の10%を寄付する
1889年 カーネギー 富を持ったまま死ぬな。生前に使い切れ
1990年代〜 チャック・フィーニー 匿名で、生前に、全額使い切る
2025年〜 ビル・ゲイツ 20年で99%を手放す

この150年の系譜を見ていて気づくのは、寄付の思想が時代を追うごとに「生きているうちに、自分の手で、使い切る」方向へと進化しているということだ。昔は遺言で寄付する人が多かった。今は、生前に、自分の判断で、最後の1円まで社会に戻そうとする人が現れている。

カーネギーが言った「富を持ったまま死ぬな」という理想を、フィーニーが完全な匿名で実行し、ゲイツが29兆円規模で実行しようとしている。思想は、時間をかけて、より純度を増している。

寄付についてもっと知りたい人に

この記事で引用した本を中心に、おすすめを挙げておく。寄付についての思想を深めたい人に、この順で読むことをすすめたい。

1. 『夢をかなえるゾウ』

水野敬也(飛鳥新社)

寄付を「自分ごと」として始める入口として最適。ロックフェラーの10%ルールをはじめ、成功者の習慣が物語形式で紹介されている。

2. 『寄付をしてみよう、と思ったら読む本』

渋澤健・鵜尾雅隆(日本経済新聞出版社)

日本の寄付文化を、歴史から現在まで網羅的に解説。渋沢栄一の”合本主義”の思想が、寄付の本質と深く響き合う。日本人による日本人のための寄付入門書。

3. 『〈効果的な利他主義〉宣言!』

ウィリアム・マッカスキル(みすず書房)

「善意」で思考停止せず、寄付の費用対効果を徹底的に分析する硬派な一冊。数字で物事を考えるのが好きな人に。

4. 『GIVE & TAKE 「与える人」こそ成功する時代』

アダム・グラント(三笠書房)

寄付そのものの本ではないが、「与える人」が長期的に成功するという事実を、膨大な研究データで示す。寄付という行為の背後にある思想を支えてくれる。

5. 『SOURCE CODE 起動』(ビル・ゲイツ自伝1)

ビル・ゲイツ 山田文 訳(早川書房、2025年12月刊)

ゲイツ初の自伝、全3部作の第1巻。幼少期からマイクロソフト創業までを描くが、「富は預かりもの」という母の教えなど、後の寄付哲学の原点が随所に見える。第3部ではゲイツ財団の物語が語られる予定。

6. 『あなたが世界のためにできるたったひとつのこと』

ピーター・シンガー(NHK出版)

現代倫理学の最重要人物による、行為より”在り方”に踏み込んだ一冊。自分の利益を超えた何かに生きることと、幸福の関係について。

7. 『ファスト&スロー』

ダニエル・カーネマン(早川書房)

ノーベル経済学賞受賞者による、人間の意思決定の仕組みを解き明かした大著。損失回避バイアスをはじめ、「寄付を増やすときに脳の中で何が起きているか」を理解するための土台になる。寄付の本ではないが、寄付を続けるうえで強力な思考の武器になる。

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